啓明舎(けいめいしゃ)|難関中学受験名門/「勝負の夏」を乗り切るために

ホーム > 塾長・後藤卓也のつぶやき > 「勝負の夏」を乗り切るために

ここから本文です。

「勝負の夏」を乗り切るために

悩める教え子の突然の訪問

先日、高校3年生のAさんが、数年ぶりに私を訪ねてきました。

算数が苦手科目なのに、どうしても「算数勝負」のB女子校志望を譲らなかったAさん。彼女の6年夏期講習以降の奮闘ぶりはすさまじいものでした。誰よりも早く塾に来て黙々と問題に取り組み、授業後の質問は夜10時までと決められているのに、「あと1問だけお願いします」と粘り続ける姿に、気がつくと11時近くまで付き合わされた日も少なくありません。まさに「虚仮(こけ)の一念」ともいえるB女子合格の瞬間も、「質問攻め」が終わるまで毎晩塾の玄関脇で待ち続けていたAさんのお母さんの姿も、いまだに忘れられない思い出です。

そんなAさんが突然訪問してきたのは、ずっと目標にしてきた医学部の模試判定が「オールE」。しかも一番得意だったはずの国語の成績が壊滅的という状況で、二度目の「勝負の夏」を迎えるにあたり、6年前の初心にかえって「活を入れ直して欲しかったから」とのこと。私は中学受験のときの思い出話をしながら、夏の過ごし方についていくつかアドバイスをしました。

中学受験と大学受験。それぞれの「夏の過ごし方」には共通する部分が少なくありません。今回は、Aさんとの会話を振り返りながら、小学6年生向けの「アドバイス」をまとめていくことにします。

「壮大な計画」は失敗の第一歩

Aさん「期末試験が終わったので、これから2学期が始まるまで毎日14時間の学習計画を立てたんですけど、母も予備校の先生も反対するんです」

「毎日14時間なんて無理でしょ?」と「ふつうの人」は思うでしょうが、Aさんは中学受験直前の1か月間、本当に毎日14時間くらい勉強していましたから、本人はいたって本気です。

「まあ、君なら本当に14時間学習を続けられるかも知れないけれど、予め『14時間×50日=700時間で、問題集を10冊全部終わらせる』みたいな壮大な計画を立てるのは愚策だな。中学受験のときは『最後の1か月』だから無理も効いたけど、夏は心身ともに疲れがたまるから絶対に睡眠時間は確保すべきだし、なにより『計画通りに進まない』という焦りがストレスを生む。むしろ『1日8時間で確実に終わる』くらいの最低限の計画を立てて、1日分の予定を消化できたら、『振り返り』の時間を作ったり、自分へのご褒美として好きな本を読むことも大切だよ。それが結果的に、国語の成績向上にも繋がるんじゃないかな?」

こんな話をすると、小学6年生はすぐに、適当に宿題を終わらせて「自分へのご褒美」をあげようとするので、塾と家庭で学習進度と「ご褒美」についてチェックする必要があるでしょう。ただし「壮大な計画を立てない」という点では中学受験も同じ。計画倒れによる焦りやストレスこそが失敗の第一歩なのです。

苦手科目を克服しようとしない

6年前の夏、Aさんは自宅で苦手な算数を徹底的に勉強しようとしていました。夏休み中はたっぷり時間がある。だからここで徹底的に「苦手教科」を克服しよう。誰でもそう考えるはずです。しかし私は「4教科バランスよく、むしろ自宅では得意な国語や社会をやるように」とアドバイスしました。

大学受験は科目数も多いので、今回のAさんへのアドバイスは6年前とは少し違う内容でしたが、「自宅では得意科目、苦手科目は塾や予備校に任せる」という基本原則に変わりはありません。

ただでさえ塾の授業で疲れているのに、自宅で「苦手科目を克服するぞ」と意気込んでも空回りするだけ。たぶん、夏も半ばを過ぎる前に心が折れます。「頑張ってもできない」から「苦手科目」なのであって、それを「自分で頑張れ」というのは、子どもたちにとっては酷な話でしょう。

「苦手科目の克服」といっても、志望校によって「求められる学力」は異なります。受験校が確定する10月以降、過去問に取り組みながら、苦手科目のどの部分をどの程度「補強」すれば合格点に届くのかを計算しながら、課題を与え、指導していくのが私たちの仕事。夏休み中、少なくとも家庭学習においては、「得意科目」のアドバトンテージをさらに確実なものにしようと意識したほうが、学習意欲も持続するはずです。

教えすぎない・詰め込みすぎない

これは子どもたちや保護者へのアドバイスであると同時に、自らへの「戒め」の言葉でもあります。

私たちの塾を例にとれば、夏期講習8時間×22日間+夏期合宿4日間。自分が担当する算数・理科だけで100時間以上の授業時間があります。これは4月から7月までの授業時間数とほぼ同じ。しかも家庭学習の時間もたっぷり確保できる。だから、夏のあいだに「あれも教えよう」「これも復習させよう」と意気込み、山のように教材を用意し、「わかるまで何度でも教えよう」とする。つまり私たち自身が「壮大な計画」に心を奪われてしまうのです。

でも、「繰り返し教えれば必ずできるようになる」「教えた分だけ知識量は増加する」というのは、教師(大人)の願望と傲慢の産物に過ぎません。人間の脳は、収納ボックスと同じで、たくさんのものを詰め込めば、箱からこぼれ落ちたり、箱の中がごちゃごちゃになったりします。子どもの頃は、知的な刺激を与え、目的意識と「肯定的自己感情」をもたせることで、「収容量」も少しずつ大きくなっていきますが、少なくともたかだか夏の1か月半で、急に箱が大きくなることはありません。

仮に1日12時間勉強したとしても、「収納」されるのはせいぜいその半分程度。さらに翌日にはそのうちの半分程度は、箱からこぼれてしまうか、箱の底の方に埋もれて行方不明になる。それは脳が「オーバーヒート」しないための「安全装置」みたいものじゃないかと思うのです。

「時間がたっぷりあるから、たくさん教えよう、詰め込もう」とするのではなく、時間があるからこそ、「自分で考える」時間や「ノートにまとめる」時間、そして「箱の中」を整理するための「振り返り」の時間を確保する。教える側(教師)・見守る側(保護者)に求められるのは、子どもの成長を待つ覚悟だと思います。

「夏の終わり」が決戦の時ではない

「夏が終わっても、受験までまだ半年近くあるんだから、夏が終わったときに本当の戦いの準備が始まるくらいのつもりでいたほうがいい。焦らずに、『最低限これだけは』という目標を立てて、ときには『自分へのご褒美』を楽しみながら、気力と体力を充実させた状態で、秋を迎えること。わかったか?」

憑き物が落ちたように笑顔で帰っていくAさんの姿をみて、「彼女なら大丈夫だ」と確信しました。皆さんのお子さんも、笑顔で、充実した夏を過ごすことができるよう、応援しています。